時間が止まった部屋
山のふもとの小さな町に、一般の家をそのまま公開している資料館がある。入口に看板はあるが、外から見ると普通の民家と変わらない。年間の来館者は三千人ほどだという。
玄関を入ると、空気が少し冷たくなる。台所には茶わんが伏せて並べられ、居間の机には読みかけの新聞が置かれている。あたかも住んでいた人が少し出かけただけであるかのように、すべてがそのままになっているのだ。
この家に住んでいたのは、戦後この町で医者をしていた内田さんという人である。二十年前に亡くなったあと、家族が町に寄付した。町は家具も食器も動かさず、掃除だけをして公開することに決めた。
案内をしている高木さんは言う。「説明の札はなるべく置きません。見た人が自分で想像したほうが、記憶に残りますから。」実際、見学者の多くは声を小さくして歩く。あたかも人の家にお邪魔しているかのような気持ちになるらしい。
もちろん、時間が本当に止まっているわけではない。畳は少しずつ色が変わり、壁の紙も薄くなってきた。町は去年、修理の費用を集めるために寄付を募り始めた。「何もしないで残るものではないんです」と高木さんは笑う。
見学の最後、二階の窓から町が見える。電線も新しい家も見えて、そこだけは今の景色である。止まっているように見える部屋と、動いている外。その二つの間に立つとき、人は時間というものを一番強く感じるのかもしれない。
あたかも〜かのように
意味
実際にはそうではないことに、たとえて言う表現。「か」があることで、「そう見えるだけで事実ではない」という気持ちが入る。
Compares something to a situation that is not actually the case. The ka marks it as appearance rather than fact. Atakamo is the written, literary partner of marude, and can be omitted.
接続
あたかも + 動詞普通形 + かのように/かのようだ
あたかも + 名詞である + かのように
あたかも + な形容詞である + かのように
あたかも + 〜 + かのような + 名詞
例文
あたかも住んでいた人が出かけただけであるかのように、そのままになっている。
Everything is left as it was, as if the person who lived there had merely stepped out.
彼はあたかも全部知っていたかのように話した。
He spoke as if he had known everything.
彼女はあたかも専門家であるかのように説明した。
She explained it as if she were an expert.
あたかも夢の中であるかのような景色だった。
It was a scene as if out of a dream.
ポイント:「あたかも」は省略できる(〜かのように だけでもよい)。話し言葉では「まるで〜ようだ」、書き言葉では「あたかも〜かのようだ」を使う。
読解問題
1. この資料館の外見について、正しいものはどれか。
2. 部屋の中の様子を表しているものはどれか。
3. 町がこの家をどうすることに決めたか。
4. 高木さんが説明の札をあまり置かない理由は何か。
5. この文章の書き手の考えに最も近いものはどれか。
スコア
0 / 5