計算上は間に合う
金曜の午後、工場の会議室に五人が集まった。来週の納品に間に合うかどうか、もう一度確かめるためである。机の上には、細かい数字が並んだ予定表が置かれていた。
製造部長の森さんが口を開いた。「計算上は間に合います。一日に八百個作れば、火曜の朝には終わる予定です。」数字だけを見れば、たしかに問題はなかった。
しかし、現場担当の高橋さんは首をかしげた。「その数字は、機械が一度も止まらないという前提ですよね。経験上、古い機械は週に二回は止まります。」
森さんは少し黙ってから答えた。「たしかに、理論上の数字と実際の数字は違いますね。立場上、できないとは言いにくいのですが、正直に話したほうがいいでしょう。」
結局、その日のうちに取引先へ連絡し、納品を二日遅らせてもらうことになった。担当者は驚いたようだったが、間に合わないと分かってから言われるより、今聞いたほうがずっといいと言ってくれた。
会議のあと、高橋さんは森さんにこう言った。「数字は大事ですが、数字だけでは現場は動きません。」森さんはうなずき、次からは予定表に機械が止まる時間も入れることにした。計算上の数字を現実に近づける、小さな一歩だった。
〜上
意味
名詞につけて、「その点から見ると」という視点を表す。「理論上は〜だが、実際は…」のように、現実との対比でよく使われる。
Attaches to a Sino-Japanese noun and marks the angle from which a statement holds. Very often used to contrast what is true on paper with what happens in practice. Formal, written style.
接続
漢語名詞 + 上
漢語名詞 + 上の + 名詞
漢語名詞 + 上は/上では
× 名詞の上 × な形容詞上 × 動詞上
例文
計算上は間に合うが、機械が止まれば話は別だ。
On paper we will make it in time, but if the machine stops that is another story.
法律上、この契約は無効である。
Legally speaking, this contract is invalid.
健康上の理由で、彼はお酒をやめた。
He gave up drinking for health reasons.
経験上、こういう仕事は早めに始めたほうがいい。
From experience, it is better to start this kind of work early.
ポイント:「〜上」は漢語名詞に直接つく硬い表現。「よく考えた上で決めた」の「〜上で(=〜したあとで)」とは別の表現なので注意。
読解問題
1. 森さんが最初に「間に合います」と言ったのは、何をもとにしていたか。
2. 高橋さんが「経験上」と言ったのは、何を伝えるためか。
3. 「立場上、できないとは言いにくい」とあるが、これはどういう意味か。
4. 取引先の担当者の反応はどうだったか。
5. この文章で一番言いたいことは何か。
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